第1 はじめに
行政法の原告適格は、司法試験・予備試験における超頻出論点です。原告適格の問題は多くの受験生が繰り返し解いていますし、判例の判断基準も、ある程度決まった形で論証集などに掲載されています。そのため、原告適格の規範を全く知らないという受験生はそれほど多くないと思います。
しかし、これまで個別指導で多くの答案を添削してきましたが、原告適格について、よく出る割には適切に論述できていない答案は結構あります。だから、予備試験でもここ数年連続して出題されているのかも?と思います。
みんな、基本的な規範は覚えているし、答案でも書いている。にもかかわらず、その後のあてはめになると、何を判断しているのかよくわからない答案になっていることがあります。
なぜでしょうか。
私としては、原告適格の判断基準そのものは覚えていても、その基準が何を意味しているのか、そして具体的な問題で何をすればよいのかが理解できていないことが原因ではないかと思っています。
以前noteで、令和4年司法試験の原告適格についての記事を書きました。そちらでは具体的な法令の読み方を扱っていますが、今回はもう少し基本的なところから、原告適格の理解と答案の書き方について説明してみようと思います。
※法理論の説明部分は私の指導の経験によるものですので、学者の説明とは異なる部分もあるかと思います。私が感覚的に補っている部分もあります。その点を踏まえて読んでください。
第2 原告適格の答案によくある問題点
私が答案を添削していて気になるのは、主に次の3点です。
1 定義が正確ではない~これはダメです!
まず、原告適格の判断基準が正確ではない答案です。
行訴法9条1項の「法律上の利益を有する者」について、判例は、当該処分によって自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうとしています。
そして、法律上保護された利益については、当該処分の根拠となる行政法規が、不特定多数者の具体的利益を一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、個々人の個別的利益としても保護する趣旨が当該行政法規に含まれる場合には、その利益も法律上保護された利益に当たるとしています。
このあたりの判断基準は、原告適格を検討するうえでの大前提です。
もっとも、漫然と暗記しているだけでは、何を公益として保護しているのか?どうして個別的利益として保護されている必要があるのか?公益との違いは何なのか?具体的な切り出しの基準は?という点がわからなくなってしまいます。
2 定義とあてはめが対応していない
こちらの方が問題としては大きいかもしれません。
例えば、次のような答案です。
Xは本件施設の周辺に居住しており、施設の設置によって騒音や振動による健康被害を受けるおそれがある。生命・身体の安全は重要な利益であるから、Xには法律上の利益が認められ、原告適格がある。
どうでしょうか?
被害の内容は書かれていますし、健康被害が重大であるという点も間違ってはいません。
しかし、なぜXの健康を害されない利益が、当該処分の根拠法令によって個別的利益として保護されているといえるのでしょうか。
この説明がありません。
この説明は、処分の根拠法令の規定の解釈で導くものです。すなわち原告適格は、原告が重大な不利益を受けるかどうかだけで決まるものではありません。原告が主張する利益が、当該行政法規によってどのように保護されているのか?を検討する必要があります。
規範では「法律上保護された利益」と書いているのに、あてはめでは「保護に値する利益」の重大性だけを論じている。これでは、規範とあてはめが対応していません。
3 行訴法9条2項を使えていない
さらに、9条2項の考慮要素を並べるだけの答案もあります。
法令の趣旨目的、関係法令、利益の内容・性質、被害の態様・程度……と、それぞれ言葉は挙げているものの、何のために考慮しているのかがよくわからない。
9条2項は、答案に考慮要素を羅列することを求めているわけではありません。
そこで、そもそも原告適格では何が問題になっているのかを確認してみましょう。
第3 そもそも原告適格とは何か?
1 なぜ原告適格という問題が生じるのか
原告適格とは、端的にいえば、ある行政処分について取消訴訟を提起できる資格のことです。
ここで前提として理解してほしいのは、取消訴訟が主観訴訟であるということです。
主観訴訟は、自己の権利利益の救済を目的とする訴訟です。これに対し、客観訴訟は、法秩序の適正な維持などを目的とする訴訟で、民衆訴訟や機関訴訟がこれに当たります。
取消訴訟でも行政の適法性が審査されますが、行政処分が違法だからといって、全く関係のない人が誰でも取消しを求められるわけではありません。
そこで、行訴法9条1項は「法律上の利益を有する者」に原告を限定しているわけです。
2 処分の名宛人ではない第三者の利益
原告適格が典型的に問題となるのは、処分の名宛人ではない第三者です。
例えば、A社が工場の設置許可を受けたとしましょう。
A社にとっては、工場を設置して事業を行えるという利益があります。一方、その工場の周辺に住むXには、騒音や振動などの不利益が生じる可能性があります。
このように、ある私人に利益を与える行政行為が、別の私人に不利益を及ぼすことがあります。いわゆる二重効果的行政行為の問題です。
ここで考えてほしいのが、そもそも行政法規は何を目的として許可制にしているのかということです。
例えば、工場を自由に設置できるとすれば、事業者としては利益があります。しかし、それによって周辺住民に健康被害が生じるのでは困ります。
そこで、法律は事業者の自由を一定程度制約し、周辺住民の安全や生活環境などの保護を図っています。
つまり、行政法規には、こうした複数の利益を調整する役割があるわけです。
もっとも、法律の条文に「近隣住民Xの健康を守る」と直接書かれているとは限りません。「災害の防止」「公衆衛生の向上」など、公益的な表現が用いられていることもあります。
では、そのような規定は、社会全体の利益だけを保護しているのでしょうか。それとも、実際に被害を受ける個々の住民の利益まで保護しているのでしょうか。
この点を個別法の解釈によって明らかにすることが、第三者の原告適格を判断する際の中心的な作業です。
3 公益と個別的利益~混同しがち
ここで、判例の判断基準に戻ります。
法律が公益を保護しているからといって、必ずしも個々人の利益まで保護しているとは限りません。
例えば、ある法律が地域全体の環境を保全しようとしている場合、そのことだけで、地域住民全員にあらゆる行政処分を争う資格が認められるわけではありません。
他方、法律が周辺住民の生命・身体の安全を具体的に保護する仕組みを採用しているのであれば、その住民の利益を個別的利益として保護していると解釈できる可能性があります。
したがって、原告適格では、法律が何を保護しているのかを確認するだけでなく、それを一般的公益として保護しているのか、個々人の個別的利益としても保護しているのかを検討することになります。
これが、いわゆる法律上保護された利益説の考え方です。
第4 行訴法9条2項は何を意味しているのか?
1 平成16年改正と原告適格
行訴法9条2項は、平成16年の行政事件訴訟法改正によって新設された規定です。
改正前から、判例は法令の趣旨目的や保護される利益の内容・性質などを考慮して原告適格を判断していました。新潟空港訴訟やもんじゅ訴訟などがその例です。判例は解釈で原告適格の幅を広げようとしてきました。その結果の判例です。
それは一方で、従来の原告適格の判断については、救済範囲が狭すぎるのではないかという問題意識があったということです。
そこで、平成16年の行政事件訴訟法の改正で原告適格を実質的に広く認める方向で、判断の際の考慮事項を明文化したのが9条2項です。
この点は、法律上保護された利益説と法律上保護するに値する利益説との関係でも興味深いところです。
9条2項は、あくまでも9条1項の「法律上の利益」の判断について定めた規定です。他方で、法令の文言だけでなく、侵害される利益の内容・性質や被害の態様・程度なども考慮することとしています。
つまり、法律上保護された利益説の枠組みを維持しながら、利益の実質にも目を向ける方向に判断方法が拡張されたわけです。法令による保護と利益そのものの重要性をどのように結び付けるのか、という問題は残ります。このあたりは学説上も検討する価値のあるところですが、少なくとも司法試験・予備試験の答案では、現行法と判例の枠組みを正確に使うことが優先されます。
2 9条2項の考慮要素をどう使うか?
9条2項は、処分の相手方以外の者について原告適格を判断する際、根拠法令の文言だけでなく、その趣旨目的や、処分において考慮されるべき利益の内容・性質などを考慮することを求めています。
また、目的を共通にする関係法令がある場合は、その趣旨目的も参酌します。さらに、違法な処分によって害される利益の内容・性質、被害の態様・程度なども勘案します。
ここで重要なのは、それぞれの要素を独立したチェック項目のように扱わないことです。
例えば、許可要件に災害防止に関する規定があれば、どのような災害を防止しようとしているのか、その災害によって誰にどのような被害が生じるのかを検討します。
その結果、当該法令が一定の範囲の住民の生命・身体の安全を個別的利益として保護していると解釈できるかを考えるわけです。
また、被害が重大であるという事情は、その利益を法令がどのように保護しようとしているのかを解釈する際にも意味を持ちます。
ただし、被害の重大性があれば当然に原告適格が認められるというわけではありません。
結局のところ、9条2項の考慮要素は、法令がどのような利益を、誰について、どのように保護しているのかを読み解くための手掛かりだと理解するとよいと思います。
第5 実際の答案では何を書けばよいのか?
1 法令の解釈と原告へのあてはめを分ける
原告適格の答案を書く際には、次の二つを区別することをおすすめしています。
第一に、法令がどのような個別的利益を保護しているのかという問題です。
例えば、ある開発許可制度が、周辺住民の生命・身体の安全を個別的利益として保護しているかを検討します。
第二に、その原告自身が保護される範囲に含まれるかという問題です。
仮に周辺住民の生命・身体の安全が個別的利益として保護されるとしても、開発区域から非常に離れたところに住む人にまで、当然に原告適格が認められるわけではありません。
そこで、原告の居住地、開発区域との距離、地形、予想される被害の範囲などを検討することになります。
実際の答案では両者を一連の文章として書くこともできますが、頭の中では分けておくとよいでしょう。
2 法令の文言を丁寧に読む
次に、法令の文言です。
行政法の問題では、初めて見る法律や条例が資料として与えられることが通常です。そのため、あらかじめ用意した論証をそのまま書くのではなく、与えられた法令を読んで、その文言からどのような解釈ができるかを考える必要があります。
もっとも、ここで必要な解釈は、必ずしも難解なものではありません。例えば、令和4年司法試験では、森林法10条の2第2項にある「周辺の地域」と「依存する地域」という文言の違いに着目することが求められました。
「周辺」と「依存」では、当然意味が異なります。
この違いに着目できれば、保護される地域的範囲について異なる解釈が必要になることにも気付けるはずです。令和4年司法試験の採点実感でも、この文言の相違に着目して検討できている答案は高く評価されています。
こうした点については、以前のnote記事で詳しく説明していますので、具体的な答案の書き方を確認したい方はそちらをご覧ください。
3 答案の改善例
簡単な例を挙げてみます。
ある条例が、施設による健康被害を防止するため、住宅から100メートル以内への施設設置を原則禁止しているとします。
そして、その施設から80メートルの住宅に住むXが許可処分の取消しを求める場合です。
次の答案ではどうでしょうか。
Xは施設から80メートルの場所に居住しており、健康被害を受けるおそれがある。健康は重要な利益であるから、Xには原告適格が認められる。
これでは、条例がXの利益を個別的に保護していることが説明できていません。
そこで、例えば次のように書いてみます。
本件条例は、健康被害の防止のため、住宅から100メートル以内への施設設置を原則禁止している(本件条例〇条〇項、同施行規則●条)。このように住宅との距離を基準として施設の設置を制限していることからすれば、本件条例は、一定の範囲の住民の健康を個別的利益としても保護する趣旨を含むと解される。
Xは施設から80メートルの住宅に居住しており、条例が保護する住民の範囲に含まれる。そして…(侵害のおそれのあてはめ)。したがって、Xには原告適格が認められる。
架空の事例なのでかなり単純化していますが、違いはわかると思います。
後者では、条例の具体的な規定を根拠として、個別的利益の保護を説明しています。そして、Xがその保護範囲に含まれることを論じています。
つまり、判例の規範に沿ってあてはめができているわけです。
第6 出題趣旨・採点実感から考える原告適格の書き方
ここまでの話は、私の経験によるものですが、司法試験の採点実感でも、同じような指摘が繰り返されています。
例えば、平成30年司法試験では、墓地経営許可について、DとEという異なる立場の者の原告適格が問題となりました。
この問題では、Dが土地を所有しているという事情を挙げるだけで原告適格を認める答案や、Eが被る損害を論じるだけで、条例の距離制限規定を十分に検討していない答案などが指摘されています。
要するに、原告に不利益があることは説明できても、なぜその利益が法令によって保護されているといえるのかを説明できていないわけです。
令和4年司法試験でも、判例の判断基準や森林法の規定を使いながら、原告ごとの利益や保護範囲を検討することが求められています。
特に興味深いのは、同年の採点実感で、知識量そのものよりも、法令や事実関係の分析力、基本的理解と応用力、論理的な思考・表現力を重視すると明記されていることです。
行政法で求められていることがよく表れていると思います。
原告適格の判断基準を暗記することよりも、覚えた判断基準に従って個別法を解釈できるかが問題なのです。
第7 原告適格の答案で差がつくところ
最後に、答案を書く際に特に気を付けてほしい点を整理します。
1 原告が主張する利益を特定する
まず、原告が何の利益を侵害されると主張しているのかを特定してください。
生命・身体の安全なのか、財産上の利益なのか、営業上の利益なのか。複数の原告が登場する場合には、特に区別が必要です。
同じ行政処分であっても、原告ごとに問題となる利益が違えば、着目すべき法令の規定や解釈の仕方も変わり得ます。
2 条文のどこの文言を解釈しているのか?明確に説明する
次に、根拠法令の規定を丁寧に確認してください。
処分の直截的な根拠法規の要件解釈をしてください。
1条の法律の目的規定だけではなく、許可要件などの具体的な規定を読むことが重要です。
何条何項のどの文言から、どのような利益が保護されていると読み取れるのか。
この点を説明することが、法の仕組み解釈の中心となります。
3 被害の重大性だけで結論を出さない
生命・身体の安全は重要な利益ですし、被害の重大性は9条2項の考慮要素として意味を持ちます。
しかし、それだけで原告適格が認められるわけではありません。
あくまでも、法令がその利益を個別的に保護していると解釈できるかを検討する必要があります。
利益の性質は補助的な立ち位置になることが多い点を意識しましょう。
4 書きすぎない
これは原告適格に限った話ではありませんが、基本論点だからこそ書きすぎには注意してください。
司法試験では、原告適格のほかの設問で、行政裁量(これがほとんどですが…)、手続上の違法なども問われることが多いです。
原告適格について延々と論述した結果、後半の設問が十分に書けなくなるのでは意味がありません。
規範を正確に示し、法令の解釈と原告へのあてはめを必要な範囲で行うことが大切です。
文章が長くても、配点効率が悪くては合格答案になりません。
第8 最後に
原告適格は、司法試験・予備試験で繰り返し出題される基本論点です。
だからこそ、規範を覚え、過去問を解いたことで、十分に理解したつもりになってしまうことがあります。
しかし、実際の答案では、判例の判断基準に沿って法令を解釈し、原告の具体的な利益と結び付けて説明する必要があります。
これまで、原告適格の答案を何度も書いてきた人は、ぜひ一度、自分の答案を読み返してみてください。
規範とあてはめは対応しているでしょうか。また、その結論を導いた根拠が、法令のどこにあるのか説明できるでしょうか。
行政法では、条文を正確に読み、法令の仕組みを理解し、事案に適用することが大切です。原告適格の問題は、そうした行政法の基本的な考え方を身に付けるためにも、非常に良い題材だと思います。ぜひ、判例も読んで、答案に落とし込めないか?確認して、よりよい(点数がしっかりつく、わかっていると伝わる)答案を作れるようになりましょう。
以上、参考になれば幸いです。
それでは!
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