危険の現実化説とは?判例・答案で理解する刑法の因果関係

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刑法の因果関係で「危険の現実化」という言葉はよく出てきますが、答案では意外と扱いにくい概念です。単に「実行行為の危険が結果に現実化した」と書くだけでは、ほとんど結論を言い換えただけになってしまいます。

大事なのは、①実行行為にどのような危険が内在していたのか、②実際にはどのような因果経過をたどったのか、③介在事情があったとしても、最終結果をその危険の実現と評価できるのかを具体的に示すことです。

この記事では、相当因果関係説との違い、大阪南港事件などの判例の流れ、そして司法試験・予備試験の答案での使い方まで整理します。

1 まず結論―「危険の現実化」とは何を見る考え方か

刑法上の因果関係について、現在の受験実務では、実行行為に内在する危険が結果へと現実化したといえるかという観点から検討する整理が一般的です。

もっとも、ここは少し注意が必要です。最高裁が一般論として「危険の現実化説を採用する」と宣言したわけではありません。近時の判例が、実行行為の危険性と現実に生じた結果・因果経過との対応を重視していることから、学説上、その判断を「危険の現実化」という枠組みで整理している、と理解するのが正確です。

最高裁が実際に「危険性が現実化した」という表現を用いたものとして重要なのが、日航機ニアミス事件(最決平成22年10月26日・刑集64巻7号1019頁)です。

2 条件関係だけでは足りないのか

因果関係の検討では、まず事実的なつながりを確認します。典型的には「あれなければこれなし」という条件関係です。

しかし、条件関係だけで刑法上の因果関係を決めると、原因の範囲が広がりすぎます。そこで、単なる事実的な条件関係を超えて、その結果を実行行為に帰属させてよいかが問題になります。

特に難しいのが、実行行為と結果の間に、第三者の行為、被害者自身の行動、自然現象、別の過失などが入ってくるケースです。こうした事情を一般に「介在事情」と呼びます。

3 相当因果関係説との違い

⑴ 相当因果関係説の発想

従来有力であった相当因果関係説は、結果発生までの因果経過が社会生活上相当なものといえるか、という観点から因果関係を限定しようとする考え方です。

その中でも、どの事情を判断の基礎に入れるかをめぐり、客観説や折衷説などの対立がありました。受験生にとって特に有名なのは折衷的相当因果関係説です。

ただ、第三者の異常な行為などが介在する事案では、「その因果経過を予見できたか」「介在事情が異常か」という説明だけでは、判例の結論を十分に説明しにくい場面が出てきます。これが、いわゆる「相当因果関係説の危機」といわれる議論につながります。

⑵ 危険の現実化は何が違うのか

危険の現実化の発想では、中心となる問いが少し変わります。

  • 相当因果関係説:実際の因果経過は、一般的・類型的に見て相当といえるか
  • 危険の現実化:実行行為が持っていた具体的な危険が、現実の因果経過を通じて結果となって現れたと評価できるか

したがって、「介在事情が異常だから直ちに因果関係が切れる」という処理にはなりません。介在事情がかなり異常であっても、そもそも実行行為が死因を形成していたのであれば、因果関係が肯定されることがあります。大阪南港事件がまさにその例です。

4 判例で理解する「危険の現実化」

⑴ 米兵ひき逃げ事件―介在事情によって因果関係が問題となる典型

米兵ひき逃げ事件(最決昭和42年10月24日・刑集21巻8号1116頁)は、被害者が車両との衝突後、同乗者の行為によって車上から転落し、その傷害と死亡との関係が問題となった事案です。

この判例は、後続する第三者の行為が入った場合に、最初の行為だけで最終結果まで帰属させてよいのか、という問題を典型的に示します。

⑵ 大阪南港事件―第三者の暴行が介在しても因果関係を肯定

大阪南港事件(最決平成2年11月20日・刑集44巻8号837頁)では、被告人の暴行によって被害者に死因となる傷害が形成された後、第三者による別の暴行が加わりました。

最高裁は、犯人の暴行によって既に死因となる傷害が形成されている以上、仮に第三者の暴行によって死期が早まったとしても、最初の暴行と死亡との因果関係を肯定できるとしました。

ここでは、第三者による暴行が「異常な介在事情かどうか」だけで結論を出していません。重要なのは、被告人の暴行自体が死亡結果を生じさせる危険を既に具体化していたという点です。

⑶ 高速道路進入事件―被害者の逃走行為が介在した場合

高速道路進入事件(最決平成15年7月16日・刑集57巻7号950頁)では、激しい暴行を受けた被害者が逃走のため高速道路に進入し、走行車両に衝突されて死亡しました。

最高裁は、被害者が高速道路に入ったこと自体は危険な行為であるとしつつ、長時間の激しい暴行による極度の恐怖の中で必死に逃走する過程で選択されたものであり、暴行から逃れる方法として著しく不自然・不相当とはいえないとして因果関係を肯定しました。

ここでは、被害者の行動が被告人の暴行によって誘発されたものかという視点が重要です。

⑷ トランク監禁事件―第三者の事故が介在した場合

トランク監禁事件(最決平成18年3月27日・刑集60巻3号382頁)では、被害者を自動車のトランク内に監禁した状態で路上に停車していたところ、第三者の車両が追突し、被害者が死亡しました。

このような事案では、直接結果を発生させたのは第三者の運転行為であっても、そもそも被害者を危険な場所・状態に置いた実行行為の危険が、その事故を介して結果に現実化したと評価できるかが問題になります。

⑸ 日航機ニアミス事件―「危険性が現実化した」という表現

日航機ニアミス事件(最決平成22年10月26日・刑集64巻7号1019頁)は、危険の現実化を理解するうえで特に重要です。

最高裁は、機長の操作という介在事情があったことを踏まえつつ、それが異常な操作とはいえず、管制官の誤った降下指示に大きく影響されたものであったとして、ニアミスは「本件降下指示の危険性が現実化したもの」と判断しました。

この判示からも分かるように、単に「介在事情があったか」を数えるのではありません。介在事情を含む実際の因果経過が、実行行為の危険から説明できるものなのかを見る必要があります。

5 介在事情がある場合の考え方

答案では、次の順番で考えると整理しやすいです。

  1. 現実に発生した結果と因果経過を正確に把握する
  2. 実行行為にどのような結果発生の危険が内在していたかを具体化する
  3. 介在事情がその危険とどのような関係にあるかを検討する
  4. 最終結果を実行行為の危険の現実化と評価できるかを結論づける

介在事情を検討するときには、「介在事情が異常か」「結果発生への寄与がどれほど大きいか」だけを機械的に並べるのではなく、その介在事情が実行行為によって誘発されたのか、実行行為とは独立した新たな危険なのかを見ることが重要です。

6 答案ではどう書くか

⑴ 規範だけで終わらせない

例えば、規範としては次の程度で十分です。

「刑法上の因果関係は、実行行為に内在する危険が結果へと現実化したといえる場合に認められる。」

しかし、点差がつくのはその後です。

「本件暴行は強度であったから危険である」というだけでは抽象的すぎます。どの事実から、どのような結果を生じさせる危険があったのかを示し、その危険と実際の死因・傷害結果を結び付ける必要があります。

⑵ 介在事情がある答案の型

例えば、次のような順番です。

  1. Aの行為には、○○という結果を生じさせる具体的危険があった。
  2. 実際にはXという介在事情を経て結果が生じている。
  3. もっとも、XはAの行為によって誘発されたものである/Aの行為と無関係な独立した危険とはいえない。
  4. したがって、現実の結果はAの行為に内在した危険が現実化したものと評価でき、因果関係が認められる。

もちろん、具体的事案によっては逆方向の評価になります。重要なのは、結論から「危険の現実化」という言葉を貼り付けるのではなく、危険の中身→介在事情との関係→結果という流れを示すことです。

7 受験生によくある3つのミス

① 「介在事情が異常だから因果関係なし」と直結させる

大阪南港事件を考えれば分かるとおり、第三者のかなり異常な行為が介在しても因果関係が肯定される場合があります。介在事情の異常性は重要な事情ですが、それだけで結論は決まりません。

② 相当因果関係説と危険の現実化説を二重に検討する

答案で「まず相当因果関係説、次に危険の現実化説」と二つの規範を並べる必要は通常ありません。自分が採る判断枠組みを示し、その枠組みに沿って事実を評価した方が読みやすい答案になります。

③ 「危険」を抽象的に書く

「暴行には死亡の危険がある」「監禁には危険がある」だけでは弱いです。問題文の具体的事実から、どのような機序でどの結果につながる危険なのかまで一段掘り下げてください。

8 よくある質問

Q1 判例は「危険の現実化説」を採用していると書いてよいですか?

受験上は「近時の判例は、実行行為の危険が結果に現実化したかを重視している」と整理するのが安全です。最高裁が一般論として学説名を掲げて「危険の現実化説を採用する」と宣言しているわけではない点には注意してください。

Q2 介在事情の予見可能性は不要ですか?

無意味になるわけではありません。ただし、予見可能性だけを独立の決定基準にするのではなく、実行行為の危険性、介在事情との関連性、現実の結果へのつながりを評価する中で考慮する方が、近時の判例の理解にはなじみます。

Q3 司法試験ではどこまで判例名を書くべきですか?

判例名を大量に並べる必要はありません。それよりも、問題文の事案が「第三者の介在」「被害者の逃走」「独立した事故」など、どの判例と似た構造を持つかを理解して、あてはめに反映できることが重要です。

9 まとめ

  • 条件関係があるだけで刑法上の因果関係が当然に認められるわけではない。
  • 近時の判例は、実行行為に内在する危険と現実の結果・因果経過との対応を重視している。
  • 「介在事情が異常か」だけではなく、その介在事情が実行行為の危険とどう結び付くかを見る。
  • 答案では「危険の中身→介在事情→結果」の順に具体的に書く。
  • 「危険の現実化」という言葉自体より、その中身を事実に即して説明できることが重要。

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