2024年4月17日月更新
第1 はじめに
本記事は、「私の本棚~司法試験編~憲法」の2024年度アップデート版です。2021年に公開した前回の記事から書籍を更新しつつ、リンクを入れ替えたりして最新版に対応させました。
またこの間の指導経験や実際の利用に応じて感じた内容を改めて追記しました。
第2 憲法の書籍の外観
憲法は、司法試験予備試験の問題と基礎知識といわれる部分の距離が比較的遠い科目です。また、教科書に書いてある知識をそのまま答案に書くことの少ない科目です。ですが、教科書で考え方を学んでおかないと体系が崩れます。
憲法の書籍状況の特徴は、教科書や判例集も豊富にあります。何よりも豊富で特徴的なものとして副読本の多さにあります。副読本には有用な本もたくさんあります。一方で大量に同じような書籍があるため、どれを使うか判断に迷うと、下手にやりすぎてコスパがよくないです。乱読派の私でも推奨しかねる部分です。
そこで、この記事の紹介を参考にしつつ、自身で本屋で手に取って検討してみてください。
必要によっては都内であれば書店を一緒に巡って内容を説明することもできますので興味がある方は連絡してください!
第3 書籍紹介
1 基本書・教科書
①『憲法(第8版)』岩波書店 芦部信喜著・高橋和之補訂 ★★★ 通称『芦部憲法』
芦部に始まり芦部に終わる。行間を読むテキストといわれますが,最低限度のことがコンパクトに書いておりいまでも普通に使える教科書です。というか,採点官もこれで勉強していたと考えると受験憲法における共通言語ではないかと思います。
実際に論述は、結構カッチリ定義がされているため、学習が進んでから読むとわかる記述も多い。最新情報は補訂でカバーされているので把握もできる。
教科書に指定されたら、必ず読んでほしい本です。
最近は使わない人もいますが,聖書ですので一度は読んでほしいです。
②『憲法学読本(第3版)』有斐閣 安西ほか著 ★★
私が受験時代には使っていませんでしたが,最近指導の際に推奨しています。読みやすし,統治も記述があるので1冊で憲法をと思う人にはお勧め。
②『立憲主義と日本国憲法(第5版)』有斐閣 高橋和之著 ★
芦部憲法の補訂をしている高橋先生の基本書。審査基準論の理解が進む一冊でした。割と芦部憲法でわからない部分や不足している部分の補充として使用していました。
③『憲法1人権(第8版)』『憲法2統治(第8版)』有斐閣アルマ 赤坂・渋谷著 ★★
法学部生・未修者コース向けの教科書としての本です。ほかの書籍よりも、人権の関係性、違憲審査の分類、判例の流れなどが図表でまとまっていて知識の整理にはちょうどよい本です。統治もコンパクトで非常にわかりやすかった。これくらいの知識量で充分と思う。
④『憲法Ⅰー統治機構(第2版)』『憲法Ⅱー人権(第2版)』日本評論社 ★★★
最近の教科書として主流の本です。シリーズを通して分量が300ページ以下でコンパクトでまとまりがよいです。図表や判例の原文引用などは少ないですが、具体例が非常に良いものがそろっており、わかりやすい書籍です。
今教え子にメインで推奨している教科書です。
2 体系書
①『日本国憲法論(第2版)』有斐閣 佐藤幸治著 ★
法科大学院を作った方(らしい???)の著作。表現の自由やプライバシーの自己情報コントロール権説などはわかりやすい。統治の内容もここまで書いてあれば試験的には十分。体系書といえばこれ!という一冊に思う。
法科大学院制度を作った点は…許せんのですが、体系書としては使えるものです。
②『憲法1-基本権 第2版』『憲法2ー統治機構』日本評論社 小山他著 ★★
新4人本。最近の受験生のトレンド的には参照する方が多いと思い受験指導で辞書として使用している。内容的には可もなく不可もなく、という感じです。従来の教科書と異なる点として、違憲審査ではなく、本当の意味での三段階審査を意識して表現された教科書です。
現在の司法試験で厳密な意味での三段階審査の枠組みで答案を書くことはないとは思います。しかし、判例の分類や説明の仕方は、違憲審査論をベースにするほかの教科書とは一線を画するため、同じ判例・同じ知識を別の視点で確認するという意味では非常に良い本といえます。
kindleで買って辞書として保有するという方法もありだと思います。
3 演習書
①『判例から考える憲法』法学書院 小山他著 ★★
今は亡き司法試験の受験雑誌「受験新報」の連載をまとめて再編した演習書です。事例の内容が司法試験・予備試験の問題との距離感がほどよく,解説も丁寧でわかりやすく、非常に使い勝手がよかった。私が現役受験生のころ(2015年ごろ)は必携といえたともいますが、2024年現在では、古い本ですので、必須の本ではないでしょう。
図書館とかで読めるなら読んでみるといい本。
これに代わる書籍がでてくれることを願っています。
※『事例問題で考える憲法』有斐閣 松本和彦著と差替え検討中
②『憲法起案演習―司法試験編』弘文堂 渋谷秀樹著 ★
アルマを書いている渋谷先生の司法試験過去問の解析本。学者の司法試験問題の解析本としては,これしかないかなと思う(よく考えたら後述の『憲法ガール』の著者の大島先生がもはや学者か?)。内容は30ページくらいまでの総論部分だけは非常によい。判例のまとまりや答案作成の際の視点になる。
しかし,本題のはずの問題の検討部分となる各論は、、、まぁひかえめにいって読む価値は極めて乏しい。。。参考答案も合格のための参考にはならないし,現場でここまで分析できるか?としかいえなもの。およそ受験生をターゲットとしているようにも思えない記述も多く、意図が不明な本という印象。学者が書いてみた司法試験答案という感じか。というか,この分野だと『憲法ガール』が強すぎるためわざわざ読まなくとも。。。総論部分の表はよいが,ならアルマにも同様の表はあるのでそっちの方が情報量が多くてよいと思う。
※ネタとして以下の授業が面白いのでURL貼ります
③『憲法演習サブノート210問』弘文堂 宍戸・曽我部編著 ★
演習サブノートシリーズの一冊。民法と刑法がよかったので買ってみて読みました。民法刑法と比べて内容的に疑問符??の着く問題が多く微妙かなと思いました。
メリハリをつけて読めば、まぁ読み物としては面白いかなという程度ですので購入は推奨しないです。
事例問題集といいつつ、重要な箇所で一行問題の問題があるなど、おふざけですよね?はしがきと内容の不一致があるのはどうして?という感想です。
9条の問題とか国際法ですよね??どこに向けて書いているのか…わからない問題もある程度あります。
一方で論点を網羅的につぶしている演習書もほかに少ないため論点つぶしの教材(重要問題習得講座等)がない場合には選択肢に入れていいと思う。
※とかいろいろ言っていますが、いずれ答案集を作って販売したい。
④『憲法ガールRemake Edition』『憲法ガールⅡ』法律文化社 大島義則著 ★★★
憲法の過去問解説の究極。問題を小説形式で解説するという独特の内容。絵もいいですし,読みやすい。分析のレベルは受験レベルとしては最高峰なので個々に書いてあることの半分くらいが本番で書けるように勉強すれば問題ないと思う。個別指導の方には必ず購入してもらっている書籍です。
4 判例集
①『憲法判例百選Ⅰ(第7版)』『憲法判例百選Ⅱ(第7版)』有斐閣 長谷部,石川・宍戸編 ★★★
定番の1冊(2冊)。Ⅰ部分だけも試験範囲的には十分ですが,社会権・参政権・人身の自由がⅡに掲載されている点、統治の判例も重要であることから、2冊をまとめて推奨しています。
判例百選に掲載のある事例と判旨については、司法試験・予備試験択一で出題されても文句は言えない部分です。そのため、試験対策としては該当箇所をしっかり読むべき。
百選の使い方は別途記事にしますが,憲法判例百選は論文試験にも使える記述が解説部分等にも多いです。そのため、悩んでいるならまず買って使用すべき。統治部分の判例も択一を解きつつ必要箇所は読んで覚えていきましょう。
②『精読憲法判例[人権編]』『精読憲法判例[統治編]』弘文堂 片桐他編 ★★★
ローのテキストとして使っているというので読んでみたら非常に良かったので最近は推奨している。人権の判例は長文で読みにくいです。
しかし,この本ならガイドがしっかりしているため、メリハリをつけて判決原文を読めるし,判決の法理論がどういうものか,事案がどうだったのかを正確に理解できるといえます。判例の原文を読むという点ではよいシリーズ。
統治は論文試験での出題頻度も少ないため、判例をここまで深く読む必要はないと思います。しかし、判決の原文の前に判例の動向がまとまっておりこの部分だけでも読む価値ありといえ、統治編も一応お勧めしておきます。また、国会答弁や憲法解釈の変遷等、判例や教科書知識では補充しにくい部分がまとまっている点は非常に使い勝手がよいです(特に自衛隊の合憲性等)。
また、ロッキード事件や一票の格差関係の判例は、判断構造を理解する必要があります。それには本書の記載部分をを読めばわかるといえます。
とはいえ、繰り返しになりますが、統治はテキストでコンパクトに理解するのでもよいのでケースバイケースです。
③『憲法の地図』法律文化社 大島義則著 ★★★
憲法判例の一図付けを図表を使いながら整理してくれている一冊。判例相互間の関係から憲法の人権の体系が見えてくる非常に良い本です。薄くてある程度判例を読んでいればすぐに読めるので最後の仕上げにちょうど良い。私の受験直前の4月に出ましたが半日で読んだ記憶があります。
少し古いので、この本をそのまま使うという感じではないと思います。この本をまとめノートの下地にして、本書発行以後の判例をどこに位置付けるか?考えて追記していくと勉強になると思います。
5 そのほか
①『「憲法上の権利」の作法(第3版)』尚学社 小山剛著 ★
私が学部2年生の時に芦部憲法を読んで理解がフワフワしていたところ、出会った書籍です。これで違憲審査基準以外に三段階審査という考えを知りました。
違憲審査基準での理解がどうも進んでいなかった時期(大学1年の春休み)に読んで,違憲審査基準論以外でも判例や条文の整理できるんだな~と思い,逆に基準論の理解が進みました。判例の分析なども秀逸です。
②『憲法 解釈論の応用と展開(第2版)』日本評論社 宍戸常寿著 ★★
私としては,本書を読むことで憲法の理解が格段に進んだ思い出の1冊で非常におすすめです。とはいえ、本書の内容は、難解であるのは事実で、内容は非常に濃いと思います。
憲法の人権の考え方がみにつくおすすめの1冊。答案作成方法にも言及があり興味深いです。司法試験・予備試験レベルにとらわれずに深く憲法を検討するきっかけになる書籍です。
③『憲法判例の射程(第2版)』弘文堂 横大道聡編 ★★
最近よく使っている人を見かけるので一応持っている一冊。まだ読めてないので評価はできませんが流行っているのでよいのだろうという推定が働く。
④『憲法論点教室(第2版)』日本評論社 曾我部他著 ★★★
最近買って読んでみてよかった一冊。ここどうやって理解するんだろう?っていう意論点について一定の道筋が書いてあり理解が深まる1冊。
⑤『LAW IN CONTEXT 憲法 – 法律問題を読み解く35の事例』有斐閣 松井茂記著 ★
自分が学部2年の時の演習で使った本。ゼミの先生は確か新任の准教授で単位が取りやすいのかわからなかったため,あまり受講生がいない授業でした。そんなタイミングの学生に,これを使用して憲法問題を検討させるというかなりの無理ゲーなゼミでした(笑)。しかし,この本の内容とあいまって,人権の設定とか新規の憲法問題に対してどう対処していくのか?判例と新しい問題はどう関係し,どのように処理していくべきか?などを学べた思い出の1冊。さすがにもう古いので試験に使用するのはちょっと厳しいかも。
※2024年版で紹介を省いたもの
『憲法の急所──権利論を組み立てる(第2版)』羽鳥書店 木村草太著
※憲法は副読本の種類が多いので適宜必要なものを1冊くらい読んでおくとよい。
第4 さいごに
以上です!憲法はほかにも色々ありますが、個人的に見たことあるのはだいたいこんな感じです。
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